文系の柔軟なアイデアで患者サービスを提案〜文医融合の「ほとめきプロジェクト実習演習」について〜

情報社会学科で学ぶ力のひとつが「課題解決力」。授業で学んだ知識や技能を実際の企業や施設などで実践的に活用し、能力を磨いていきます。

久留米大学医療センターと情報社会学科が連携した実習演習科目が3年次の「ほとめきプロジェクト実習演習」。学生たちが社会学の視点や調査法を活用し、利用者目線で病院の課題を解決できるのかが問われる文医融合の取り組みです。 情報を集め、加工分析し、表現するサイクルを学問だけでなく、実践でも応用できるようになることを目的としています。

医療センターとの連携プロジェクトが始まったのは、2018年。医療センターのコンセプト「心通わせる医療」をアピールするために、文系学生と医療スタッフとのコラボ企画がスタートしました。

学生たちにとって、医療センターは未知の世界。まずは、ひたすら受付周りを観察することから始まりました。参与観察(数ヶ月以上にわたり、対象を直接観察する社会調査法)やインタビュー調査を駆使して課題の発見を目指します。

すると、総合受付前で車椅子の患者さんが居心地悪そうにしていることに気付きました。車椅子が他の利用者にとって通行や受付の妨げになっていないか不安だったようです。特に高齢者の方々が申し訳なさそうに、待っている姿が気になりました。

この気付きから生まれたのが「おもいやりスペース」。駐車場に描かれている車椅子マークがヒントとなり、待合スペースの床に車椅子マークを貼ることで、受付や手続きを待つ時間にどこにいれば良いのかを可視化したのです。このアイデアは、病院のスタッフ、患者さんの双方から大好評を得て、その後院内12箇所に増設されました。

現在は車椅子だけでなく、ベビーカーも「おもいやりスペース」を利用するなど受付前のマークが患者さんに浸透しています。学生たちは、「心通わせる医療」を表現する方法の一つとして、「おもいやりスペース」が形になったこと、またそれが多くの人に喜ばれたことにやりがいを感じていました。

医療センター内に設置されたおもいやりスペース。2018年は、地域の方に医療センターのことを知ってもらうための「リーフレット制作」もプロジェクトの一環として行った。

看護部長からも「素晴らしい提案に、スタッフが刺激を受けて院内の快適な環境づくりの⼯夫に⼀層力を入れるようになった。ありがたい」と、高い評価をいただき、杖のストッパーが受付やトイレなどにも設置されるなど、病院スタッフによる患者目線でのサービスが増えていきました。

プロジェクト2年目の2019年度に制作したのは車椅子に取り付ける「まごころポッケ」。車椅子介助の際に、書類や封筒などの持ち歩きが不便という気付きから生まれた書類入れの機能を持つ取り外し可能なポケットです。この制作で苦労したのが、車椅子利用時の安全面と衛生面。医療センター内は、感染予防が徹底されており、患者さんが触れるものはすべて消毒のために拭き上げができる素材しか使用できません。病院長からも事故やけがにつながる要素をすべて排除する必要があるという課題が提示されました。

「まごころポッケ」は、車椅子の背面にスナップで止め引っ掛けて使用。プロジェクトは、院内のスタッフたちにとっても部署や役職の垣根を越えて一緒に改善に向き合う機会になった。

アイデアには賛同してもらえたものの、病院で実際に使用できるものになるまでには10回以上の改善が必要でした。試作品を作っては、看護師や事務職の皆さんに実際に使用してもらい、修正が必要な事柄について意見をもらって作り直す。その繰り返しでした。はじめは何が問題なのかが理解できず、病院の安全・衛生と利用者の利便性の両方を解決する糸口が見つからなかったことも。それでも諦めずに試行錯誤を続け、2020年12月に1年以上の制作期間を経て「まごころポッケ」を医療センターに納品することができました。「外来患者さんに好評で毎日使ってもらっています」と、看護師や患者さんに喜んでもらえたことが嬉しいと、学生たちは達成感を感じていました。

2019-2020年度は他にも医療相談室のスタッフボード制作、御井学舎と医療センターを虹のイラストでつなぐリーフレット制作も行った。

2020年度は、新型コロナウイルスの影響により、病院内での活動が自粛となりましたが、ビデオ会議システムを活用し、非接触でのプロジェクト運営を考案。オンライン面会システムの企画を進めています。

「ほとめきプロジェクト実習演習」の特徴は、情報社会学科で学んだ知識や技能を活用し、文系ならではの柔軟な発想を表現すること。新たな知を創造し、総合的に課題を探究することです。企画、制作に携わった学生たちは、様々な視点から物事を見る、課題解決のために人と協働して物事を成し遂げるといった総合的な能力を養うことができます。

「心通わせる医療」に共感し、誰かの役に立つサービスを創り出すこと。相手の立場になって考え抜くことがプロジェクトでは求められます。新しいことへの挑戦には、失敗や壁はつきものです。たくさん転んで、起き上がり方を学ぶことができるのも学生時代の良さです。

これからも、地域や企業の方々と連携した活動を行い、文系で育成できる能力の探究に挑戦していきます。

江藤 智佐子

情報社会学科 教授

博士(教育学)、修士(経済学、教育学)。専門分野:教育社会学、キャリア・職業教育。 学校と社会をつなぐ(コミュニティ・スクール)、学術と職業をつなぐ(職業統合的学習)教育実践と研究を行っています。文系の学びの効用、能力の可視化が現在の研究(科研)テーマです。専門学校、短大、大学での教育経験、またキャリアコンサルタントとしての観点を活かしつつ、学問を通してのキャリア支援を目指しています。

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