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細胞工学 研究詳細 グルコース濃度低下に伴う細胞周期応答

グルコース濃度低下に伴う細胞周期応答

 真核生物を構成する細胞(真核細胞)は、G1、S、G2、Mと呼ばれる4つの時期を順に経て分裂し、増殖します。これら4つの時期の周期的な繰り返しを「細胞周期」と呼びます。つまり、真核細胞は細胞周期を繰り返すことによってその数を2倍、4倍、8倍、、、と増やして増殖します。

 細胞周期の進行速度は一定ではありません。一周期に必要となる時間(世代時間)は、生物種や細胞の種類によって大きく異なります。また、その細胞を取り巻く環境やストレスによる影響も受けます。たとえば、DNAに損傷を与える放射線や薬剤にさらされると、細胞周期の進行はG1期やG2期で一時的に止まります。このような細胞周期応答を「(DNA損傷)チェックポイント」と呼びます。そして、チェックポイントによって細胞周期が止まっている間にDNAの損傷は修復されます。つまり「チェックポイント」は、さまざまなストレスによって細胞やDNAに生じる障害を克服するための仕組みであるといえるでしょう。

 ほとんどの真核細胞にとって、グルコースは主要なエネルギー源です。しかしながら、細胞を取り巻く環境中に常に潤沢なグルコースが存在するわけではありません。エネルギー源の枯渇、すなわちグルコース濃度の低下は細胞にとって大きなストレスになるものと考えられますが、 それが細胞周期の進行をどのように調節しているのかについては長らく不明なままでした。我々の研究グループは、モデル真核生物である分裂酵母を用いて、この疑問の解明に取り組みました。その結果、グルコース濃度が低下すると、細胞周期の進行は一時的にG2期で停止するということが明らかとなりました。この結果は、栄養状態の良し悪し(この場合はグルコース濃度)を感知して細胞周期の進行をコントロールする「グルコース チェックポイント」の存在を示唆しています。さらに、そのG2期での停止には、酵母から人類に至るまで進化的に高度に保存されたWee1と呼ばれるタンパク質が必要であることがわかりました。Wee1は、Cdc25というタンパク質と競合的に働きながら、細胞周期の進行を調節する役割を持っていることが明らかとされています。

グルコース濃度低下に伴うG2期停止 では、グルコース濃度低下に伴う一時的なG2期停止にはどのような意義があるのでしょうか?分裂酵母は、グルコースの豊富な培養液からいきなりグルコースを全く含まない培地に移すとすぐに死んでしまいます。しかしながら、グルコースを含まない培地に移す前に、低濃度のグルコースを含む培地中でほんの数時間培養してやると、グルコースを含まない培地中でも1か月程度生き続けます。つまり、低濃度グルコース培地で培養することによって、細胞の寿命が顕著に延長されるということです。この「延命効果」に、先に述べたG2期停止が必要であると思われます。Wee1タンパク質を欠損した細胞は、グルコース濃度が低下しても、細胞周期がG2期で一時停止しません。そのような細胞では、低濃度グルコース培地での培養による「延命効果」が観察されませんでした。

 Wee1を欠く分裂酵母細胞は、高濃度のグルコースが存在する環境では増殖を続けます。それゆえ、我々が今回得た結果は、「Wee1タンパク質の機能を阻害することで、グルコース飢餓環境にある細胞のみを選択的に除外できるのではないか」という可能性を示唆しています。腫瘍中の細胞(つまり癌細胞)は、酸素欠乏・栄養飢餓状態にあるものと考えられています。したがって、もし我々の得た結果がヒト細胞にも適用可能であるならば、Wee1タンパク質の機能を阻害することで選択的に癌細胞を攻撃することが可能になるかもしれません。

参考文献

F.Masuda et al.
Glucose restriction induces transient G2 cell cycle arrest extending cellular chronological lifespan. Scientific Reports (2016)


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