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【研究成果の発表】半世紀にわたり物性が不明だったOMP分子の機能を解明

OMP分子が匂いを感じ続けるためのメカニズムに関与

久留米大学医学部生理学講座統合自律機能部門の中島則行講師、中島明子大学院生、鷹野誠教授らの研究グループは、嗅覚神経細胞における新たな情報処理メカニズムを発見し、その結果が2020年5月4日に「Nature Communications」に掲載されました。

中学生・高校生向けの分かりやすい解説はこちら (PDFファイル)(208KB)

研究の概要

匂いの受容は、鼻腔内の嗅上皮にある嗅覚受容神経細胞(嗅細胞)が匂い物質を感知することから始まります。嗅細胞に発現する数百種類もの匂い受容体の組み合わせによって匂いの性質に関わる情報を担うと考えられています。匂い刺激を受けた嗅細胞内では、受容体の種類に関わらずcAMPという単一の化学分子が感覚信号として産生されます。さらに「cAMPが結合することで開くCNGチャネル」を介して神経が脱分極し、神経活動(活動電位)が発生して、脳へ匂い情報が送られます。

一方、すべての嗅細胞にはOlfactory marker protein(OMP)という特異的マーカーが存在することが知られており、神経ネットワーク形成や匂い情報処理への関与が推測されてきました。しかし、OMPの詳細な生理機能については発見から半世紀を経ても謎でした。

当研究チームは、まずバイオインフォマティクスによりOMP分子の中に進化的に保存された領域があることを発見し、この領域が細胞内情報分子であるcAMPの結合ポケットになっていることをシミュレーションで予測しました。さらに、試験管中においてOMPとcAMPが近接相互作用をすることを証明し、結合の強さを決定しました。細胞内では、増加したcAMPをOMPが速やかに吸着することで、CNGチャネルは開いた後にすぐ閉じることを見出しました。

図解

ところがOMPがないと、感覚刺激に対してCNGチャネルが開き続けてしまい、持続脱分極によって嗅細胞は急速に電気活動を止めてしまいました。そこで、OMPによる「cAMP緩衝」のメカニズムにより持続的な脱分極が回避され、嗅細胞の継続的な感覚応答が可能となることが分かりました。

OMPをノックアウトした動物の行動を見てみると、お腹を空かせたマウスは「エサ」という『匂いの性質』に関する情報は感知でき、すぐにエサを探し始めました。しかし、持続的に『匂い探索』をする場面において、匂いの源がどこにあるのか探索できないということを確かめました。

マウスによる実験の結果

新しい細胞内の情報処理メカニズムの発見

これまでにも、OMPは嗅細胞の遺伝子マーカーとして汎用され、匂いの感受性や神経回路構築に影響を与えることが示唆されていました。今回の研究成果は、それらの生理現象の背景に存在する分子レベルの機能の一端を明らかにしたものです。

cAMPは多くの細胞において普遍的な細胞内シグナル分子として機能しています。またOMPも脳内の複数の部位で発現が知られています。本研究で示した『cAMP緩衝メカニズム』は、細胞内シグナルの新しい処理メカニズムとして、神経活動に影響を与えていることが予想されます。今後は、中枢神経細胞が担う情報処理システムの研究へと舞台を移して、さらに生理学研究を進めていく予定です。

注釈
  • OMP…オーエムピー(嗅細胞マーカータンパク質)
    成熟した嗅細胞に特異的に発現することが知られており、細胞を標識(マーク)することに役立ってきた。物理特性が不明であった。
  • cAMP…サイクリックエーエムピー(環状アデノシン一リン酸)
    セカンドメッセンジャーの一つで、匂いに限らず多くの細胞で利用される細胞内シグナル分子。

 

今回の研究成果について

【論文名】 Olfactory marker protein directly buffers cAMP to avoid depolarization-induced silencing of olfactory receptor neurons
DOI:10.1038/s41467-020-15917-2

【著者】 Noriyuki Nakashima, Kie Nakashima, Akiko Taura, Akiko Takaku-Nakashima, Harunori Ohmori & Makoto Takano

今回の研究は、貝原守一医学研究財団、および文部科学省科学研究費によってサポートされました。研究の遂行には、学外の研究機関から大森治紀博士(金沢医大/京大)、中島輝恵博士(京大)、田浦晶子博士(藍野大/京大)らが垣根を越えて参加しています。
久留米大学は、地域社会に貢献する総合大学として、医療の発展につながる基礎研究にも力を入れています。

最後に、研究成果の発表に際し、1972年にOMPの発見したフランク・マーゴリス博士#(メリーランド大学医学部名誉教授)からも「Kudos (おめでとう!)」との言葉を頂きました。
# Margolis FL. A brain protein unique to the olfactory bulb. Proc Natl Acad Sci U S A. 1972 May;69(5):1221-4.


 

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