学部・大学院のTOPICS 学生が実践的診療に参加 朝倉医師会病院で初の長期臨床実習を実施

新たな臨床実習形式「LIC」の導入
今年度、本学医学部では初めて「長期統合型臨床実習(Longitudinal Integrated Clerkship:LIC)」を導入しました。LICとは、医学生が同一の医療機関に3〜4か月といった長期にわたり滞在しながら、診療・実習を一貫して経験する臨床実習形式です。
日本ではまだ一般的ではなく、富山大学、三重大学、宮崎大学など限られた大学のみで実践されています。本学でもLICに注目し、昨年度には富山大学の高村昭輝教授を招いた講演「長期統合型臨床実習の必要性について」を実施しました。「長く滞在することで学生は戦力になり、将来医師としてその病院に戻る可能性も高まる」とのメッセージは大きな反響を呼び、学内でもLIC導入の機運が高まりました。
こうした状況を受け、医学部クリニカル・クラークシップ部会長の吉田茂生教授と、医学教育研究センター臨床部門の山田圭教授の指導のもと、地域医療連携講座の富永正樹教授の綿密なフォローアップ体制もあり、朝倉医師会病院との連携により今回の長期臨床実習が実現しました。


長期実習の意義
令和4年度に改訂された医学教育モデル・コア・カリキュラム、および令和5年度の医師法改正により、4年次の共用試験CBT、客観的臨床技能試験(OSCE)に合格した学生は、指導医の監督下で医行為を行うことが可能となりました。
これを受けて、診療チームの一員として積極的に医療に参加する「診療参加型臨床実習」の実現が期待されました。しかし、実際には2週間から1か月で各診療科や医療機関をローテーションするため、学生たちは各部署に慣れるのが精いっぱいで、チームの一員となって診療参加型臨床実習するのは難しく、「見学型」で終わることが多いのが実情となっています。
今回の「長期統合型臨床実習」は3か月という期間で行われました。学生も最初の1か月は慣れるのに精一杯でしたが、2か月目からは滞在する病院の指導医、そして医療施設、他職種に慣れ、実際の診療に参加しました。その頃には学生自身も“スタッフとして受け入れてもらえた”という実感を得ることができました。
実習では患者さんとの関わりにも配慮がなされ、学生が医行為を行う際には、必ず事前に指導医が患者さんから個別に同意を得た上で、常に医師の監督のもとで実施されました。地域の患者さんたちの協力も厚く、胸腔穿刺や中心静脈カテーテル留置術といった高度な医行為にも参加できました。さらに、当直や救急対応などの実践的な場面にも積極的に関わることができました。
看護師からも「指導医の先生が常に学生に付き添ってくれたので、私たちも安心して任せられました。長期の実習だからこそ、こうした信頼関係が築けたのだと思います」 という声が寄せられました。
実習に参加した学生の感想
今回、LICに参加させていただき、主に二つの点で大きな学びを得ました。第一に、手技の習得についてです。大学での実習では経験できなかった多様な手技を、現場で実践的に学ぶことができました。常に指導医の先生方がそばで見守り、適切なフィードバックをいただけたことで、安心して挑戦でき、自己の成長を実感する貴重な機会となりました。
第二に、研修医としての心構えや業務内容について深く理解できたことです。これまで漠然としていた研修医の役割について、実際の業務を通じて具体的に知ることができました。特に、患者さん一人ひとりの背景や価値観に寄り添い、多職種と連携しながら最善の医療を提供する責任の重さを痛感しました。今回の経験は、医師としての専門性だけでなく、プロフェッショナリズムや倫理観を磨く上でも非常に有意義なものとなりました。
(松井宏樹さん 医学科6年)
指導医・医療スタッフからのコメント(抜粋)
今回の実習では、診療科の垣根を越えて幅広い経験を重ねるとともに、医療チームの一員としての在り方を体感する貴重な機会となりました。指導にあたった先生方や看護師、医療事務スタッフからも、温かくも力強いメッセージが寄せられました。
呼吸器内科部長 佐藤留美 先生
松井さんは不安の多い状況にも関わらず、患者さんへの優しさと積極的な学びの姿勢を貫いていました。学んだことは、今後の医師人生で必ず役立つはずです。
呼吸器内科医師 真玉豪士 先生
実習を重ねるうちに、まるで研修医のような行動力を見せてくれました。動脈血採取や胸腔穿刺など、実践的なスキルも確実に身につけられたと思います。
呼吸器内科医師 森渕粛斗 先生
共に学ぶ“仲間”として接するうちに、私自身も刺激を受け、学び直すきっかけをもらいました。こうした実習が今後も継続されることを願います。
外来師長 小柳実香 さん
実際の診療現場で、看護師や患者と真摯に向き合う姿勢が印象的でした。現場にも良い刺激をもたらしてくれました。
呼吸器・消化器科病棟師長 毛利里香 さん
初めての環境でも丁寧に患者対応をしており、医療スタッフ全体と誠実に関わる姿勢が心に残っています。
医師サポート課 江藤優美子 さん
書類作成などの業務にも前向きに取り組み、質問も積極的にされていました。学んだことをこれからの臨床で活かしていただきたいです。

今後の展開に向けて
今回の取り組みでは、学生が患者や診療チームとの信頼関係を築きやすくなり、診療の継続性や深い学びを得られることがわかりました。これをきっかけに、今後は他の学生や関連病院へも実習の機会を広げていくことが期待されています。
引き続き、地域と連携した実践的な医学教育の充実を目指してまいります。