研究・産学官連携の産学官連携TOPICS 医療的ケア児支援モデル「JANA」の製品化:研究推進戦略センターが支えるイノベーション

医療的ケア児支援モデル「JANA」の製品化:研究推進戦略センターが支えるイノベーション

本学の渡邉 理恵(わたなべ りえ)講師(医学部看護学科)が開発した医療的ケア児支援のためのモデル人形「JANA」が、医学・看護教育教材を製造・販売する京都科学によって製品化され、2024年10月より販売が開始されました。

研究成果を社会へ:研究者の挑戦を支える研究推進戦略センターの役割

研究推進戦略センターは、大学内の研究成果を社会に還元するために、その研究成果としての知的財産を迅速かつ効果的に管理・育成・活用していくことを主たる目的とし設置されています。
今回、センターでは、渡邉講師が臨床経験と実態調査により明らかにした課題解決と、支援者の人材育成に対する強い思いを形にし、全国で必要とされる方々に届けることを目指して活動を進めてきました。モデル人形の作製に向けた研究助成金の申請をサポート、そして開発先である株式会社京都科学との連携を深めた結果、共同で「実用新案:小児気管切開ケアモデル」を登録することができました。
今後、このモデル人形が全国の施設やご家族に広く活用され、医療的ケア児を支援する一助となることを期待しています。



京都科学は、医学・看護教育を支えるシミュレータや実習モデル分野におけるリーディングカンパニーです。 https://www.kyotokagaku.com/jp/

医療的ケア児モデル JANA について

JANA
アプリと連動させて、CPRをリアルタイムで分析
アプリと連動させて、CPRをリアルタイムで分析

JANAと名付けられたこのモデル人形は、乳児の上半身を模した重さ2.8キロ、体長約40㎝の樹脂製で、首には人工呼吸器につなぐための器具「気管カニューレ」が付いており、胸の皮膚部分を外すと、気管や気管支に見立てた透明な管が見える仕組みになっています。

このモデルを使ってできることは、気管切開部のケアや、たんの吸引チューブを気管を傷つけない正しい位置まで挿入する練習、胸骨圧迫、BVMによる換気、BLS評価、すわっていない首を支えながらのケア習得などです。カニューレが外れ、命の危険につながる「事故抜去」を防ぐ対処なども学ぶことができます。またアプリと連動させて、CPRをリアルタイムで分析し,フィードバックする心肺蘇生法の訓練機能もあります。

「JANA」開発STORY

渡邉先生

開発に至った背景を教えてください

2018年に久留米大学に赴任しましたが、それ以前は鹿児島で20年間訪問看護師をしていました。訪問看護とは、看護師がお宅に訪問して、その方の病気や障がいに応じた看護を行うことです。健康状態の悪化防止や、回復に向けてお手伝いし、地域で暮らす赤ちゃんから高齢者まで全ての年代の方に、関係職種と協力しあって、一人ひとりに必要な支援を行ってきました。

訪問看護の仕事で医療的ケア児とそのご家族に関わるなかで、人工呼吸器を着けて病院に入院している子どもが在宅療養に移行する際、親などの介護者がそのケアに大きな不安を抱いていることがわかりました。それはそうですよね、気管切開部(喉)の管理やケアの方法について、いくら病院で指導を受けたとしても、それを十分な練習もなく我が子に行わざるを得ないのですから。しかも母親のみがそれを背負う傾向があり、生命の維持に直接かかわることですから、その負担と恐怖心はとても大きいものがあります。

あるとき、モハメド・エルフェキ氏という在宅療養児の父親と出会いました。エジプト人の彼は日用品を工夫して、気管切開部の管理やケアのモデルを作成して練習していました。言葉の壁もあるなかで、可視化された練習用教材の重要性を強く感じたことが、小児管切開モデル人形の開発のきっかけとなりました。


日用品を工夫した教材の一部
日用品を工夫した教材の一部

開発はどのように行われましたか

小児管切開モデル人形の開発は杉浦記念財団の助成を受けて始めました。
まずやったことは、家族・退院指導担当看護師・訪問看護師・訪問介護士・相談支援専門員・療育施設の看護師らへのインタビュー調査を行い、現場で直面している課題を浮き彫りにしました。例えば、医療職や介護職の間で、気管カニューレの挿入位置や吸引チューブの取り扱いについて、実際の経験がなかったり、手技の方法は理解しているが根拠までは理解しにくいという意見があったり、家族からは医療処置の習得の難しさによる精神的ストレスが大きいことが明らかになりました。
そこで上がった現場の声をもとに、持ち運びしやすいように上半身だけの、気管や気管支など構造が理解できるモデルを、京都科学に相談し製作しました。
できあがったモデルの名前は、モハメド・エルフェキ氏の了解を得て、彼の娘の名前である「JANA」と名付けました。


教育現場でも活用されるJANA

資料:「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室作成.(2023/10/01時点)
資料:「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」について(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 障害児・発達障害者支援室作成.(2023/10/01時点) (https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000794739.pdf )
看護学科での演習風景
看護学科での演習風景
看護学科「地域・在宅療養生活支援論」での演習風景
公立豊岡病院組合立豊岡病院 港敏則医師開催研修会の様子
公立豊岡病院組合立豊岡病院 港敏則医師開催研修会の様子
演習風景、渡邉講師は講義と演習指導を担当
演習風景、渡邉講師は講義と演習指導を担当

JANAは、医学部看護学科の「地域・在宅療養生活支援論」の演習で使われているほか、小児科のある病院や医療的ケア児支援センターなどさまざまな施設への貸出を行ってきました。

日本では、低出生体重児の増加や周産期医療の進歩に伴い、地域で暮らす医療的ケア児が増加し、その数は2万人超と推計され約10年間で2倍に増加しています
医療的ケア児とは、①気管切開がある ②痰の吸引が欠かせない ③人工呼吸器をつけている ④在宅酸素療法を受けている ⑤胃や腸などから経管栄養を受けている等の状態の児童を指します。
こうした児童に対して、気管切開や痰の吸引、人工呼吸器の使用といった生命維持に直接関わる医療ケアの技術習得が求められています。しかし、現在まで、医療や福祉、教育などの現場で、医療的ケア児の支援に必要なスキルを学べる教材はほとんどありませんでした。

JANAが今回製品化されたことで、より多くの方が必要なスキルを学び、医療的ケア児の支援体制が拡がることが期待されています。


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