研究・産学官連携の研究TOPICS 【研究者インタビュー】医学部免疫学講座 溝口 充志教授

【研究者インタビュー】医学部免疫学講座 溝口 充志教授

本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。

医学部免疫学講座 溝口 充志 教授

所属部署について教えてください。

免疫学の講座です。22年にわたるアメリカ・ハーバード大での生活を経て帰国し、2014年に三代目主任教授になりました。初代の横山三男教授と二代目の伊東恭悟教授もアメリカから帰国して教授になられました。偶然とは思いますが、三代続くという珍しい形になりました。

どのようなことを行っているのですか?

腸内免疫の研究です。免疫学の中で最も新しい分野で、1990年代にアメリカで始まりました。従来、免疫細胞は血液やリンパ組織にしかないというのが定説でしたが、活性化した免疫細胞の60~80%は腸管粘膜固有層という組織にいることがわかってきました。腸管の上皮細胞の下に粘膜固有層というのがあって、そこにぎっしりと免疫細胞が詰まっているのです。腸管は長さ7mもありますから、大変な数の細胞があることになります。

腸内免疫は炎症性腸疾患にしか関与しないと思われていましたが、AIDSなどの免疫不全症候群、花粉症などのアレルギー反応、臓器移植に伴う拒絶反応など多様な疾患と関連していることもわかっています。

図表
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この道に進むことになったきっかけから、これまでの歩みを教えてください。

これまでの人生の中で、進む道を自分で決めたという記憶がないんですよ。久留米大医学部に入って、外科系への希望があったのですが、両親が呼吸器内科を勧めるので第1内科に入りました。先生方から「大学院に行って病理をしなさい」と言われて大学院に進むと、そのときの教授は肝臓がんが専門だったので、私も肝臓がんの研究をすることに。しばらくすると「これからは免疫学を知らずしてがんを語れない。学んできなさい」とおっしゃるので、アメリカに渡ることになりました。向こうに行くと、腸管免疫の研究が始まったばかりでした。講座の方針も腸管免疫へと転換してしまい、そのまま研究を続けているという次第です。

これまでの研究活動のなかで、特に大きな転機はありましたか?

これといった転機はありませんね。ハーバード大ではノーベル賞受賞者など、とても有能な人たちが家にも帰らず研究を続けていました。そんな人たちと戦えるはずがないから、私はその人たちがやっていないことを研究しました。実臨床に有用な研究なのですが、基礎をやっている周りから見れば、私は変わり者でした。

「期待すれば腹が立つ」という言葉が好きで、何事に対しても期待せずに来たから自分なりにできたのかなと思います。英語がしゃべれないでアメリカに行くことになって、当初は「地獄に行くんだ」と覚悟しました。だから逆にちょっとしたことが幸せに思えるんです。22年間、向こうの生活に耐えられたのは、自分や周囲に特段の期待をせずに来たからかもしれませんね。研究も流れに身を任せ、自分にできることをしてきたから、大きな転機というものはなかったと思います。
 

研究がすすまない時期、どうやって乗り越えましたか?

アメリカでは米国立衛生研究所(NIH)の助成金をもらえないと、研究も生活もできません。支給してもらうための論文を3回までチャレンジすることができますが、それでも認められないと助成は止められ、研究室を出ていかなければなりません。ぎりぎりという時もありました。「次が駄目だったら、自分の研究人生は終わるんだ」と。そんなとき周りの研究者は「アイム・ソーリー」と言うだけです。同情とかしても意味がないんですよ。だから自分にできることをコツコツとやるだけでした。いつでも研究室を出ていける準備をして、神に祈りながらですね。

お仕事以外に大事にしているものはありますか?

アメリカでの22年間は研究するか、家で論文を読むかという仙人のような生活でした。その結果、体重が88キロに増えたため、日本に戻ってからは体重を減らすという意味で歩くようにしました。夕食後、毎日3時間、距離にして18キロ歩いています。週末は妻と一緒に出掛け、朝から晩まで歩きます。その結果、7か月で17キロ減量できました。

現場から離れて気分転換や休日にどんなことをされていますか?

休日も歩いていますね。共働きなので食事は外食になりがちですが、それも楽しみのひとつ。もちろん食事の後は歩いて帰ります。

写真
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現場での活動をとおして、社会、人にどのようなことをもたらしたいと思いますか?

市民のみなさんには、公開講座などで腸内免疫の話をさせてもらっています。特にビッグデータを基に健康と食の関係について説明しています。がんに良いとされる食べ物とかですね。要はバランスが大事ということです。例えばナッツが発がん予防になるというデータがありますが、ナッツはカロリーが高く、食べ過ぎると太って糖尿病や心筋梗塞のリスクが増えます。そこが食の難しさですね。データはあくまで統計的な結果であって、「あなたにはこれがベスト」という食べ物はありません。「健康なおなかの免疫」が多くの疾患の予防や治療につながることを知ってもらうことが大事だと思っています。

研究者や医師を目指す方へメッセージをお願いします。

学生のみなさんに望むことは、6年間で卒業して医師国家試験に合格してもらうのが第一。そのために私たちは懸命に教えています。
研究では「失敗することは当たり前なんだ」と伝えています。人生でもそうですよね。だから「失敗してもくよくよせず、前向きに行きなさい」と。研究の仮説を立てても、まず、その通りになることはありません。「何度も失敗を繰り返しているうちに、思ってもいなかったことが浮かび上がってきて、答えが出たりするもんだよ」と教えています。

久留米大学が「地域の『次代』と『人』を創る研究拠点大学」を目指していることについて。

地域は大学にとって最も大事なより所。基本中の基本です。また、人と人とのつながりも大切だと思っています。大学のOB、同門の先生方は、筑後地域のみならず、全国でたくさん活躍されています。そういう方々と連携することができるという強みがあります。大学が存在する意義と育んできた歴史が地域を大事にしなさいと言っているように思え、地域の将来を担う医師を育てる私たちの役割も大きいと考えています。

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略歴

1989年 久留米大学医学部 卒業
1992年 米国ハーバード大学医学部免疫病理 留学
1997年 米国ハーバード大学医学部 病理学講座 助教(Instructor)
1999年 マサチューセッツ総合病院 炎症性腸疾患研究センター 主任研究員
2003年 米国ハーバード大学医学部 病理学講座 講師(Assistant Professor)
2011年 米国ハーバード大学医学部 病理学講座 准教授(Associate Professor)
2014年 久留米大学医学部 免疫学講座 主任教授

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