研究・産学官連携の研究TOPICS 「答えのない問い」が医師を育てる――久留米大学・九州大学による全国初の実態調査

「答えのない問い」が医師を育てる――久留米大学・九州大学による全国初の実態調査

医師にとって、研究活動に取り組むことにはどのような意味があるのでしょうか。この素朴な疑問に本格的に向き合った全国初の実態調査が、久留米大学と九州大学の研究チームにより実施されました。

本研究では、久留米大学内科学講座心臓・血管内科の同門医師136名を対象に調査を行い、研究経験が医師としての成長にどのような影響を与えるのかを検討しました。その結果、研究経験から得られた「課題を見つけて深く考える力」「他者と協力する姿勢」「自ら学び続ける態度」が、診療現場で重要な力となっていることが明らかになりました。

具体的には、自らの研究テーマに主体的に取り組み、試行錯誤を重ねた経験が、診療における問題解決力、論理的思考力、チーム医療における連携力、成長志向に直結していることが示されました。さらに、研究経験が医師の視野を広げ、日々の臨床へのモチベーション維持にも良い影響を与えていることがわかりました。

研究活動というと成果に注目が集まりがちですが、本研究は、成果だけでなく「過程そのもの」が医師の実践力や人間的成長に深く関わっていることを明らかにしました。失敗と試行錯誤を重ねながら前に進む経験が、柔軟に考え、協力し、答えのない課題に挑む姿勢を育んでいるのです。また、今回の調査では、基礎医学、臨床医学、疫学など、研究分野にかかわらず、研究に取り組む経験そのものが、医師にとって重要な学びの場であることが確認されました。

久留米大学大学院医学研究科では、「自ら成長する力」「問題発見・解決能力」「仲間と協力する力」を総称して「動的能力」と呼び、これらを育む教育に力を入れています。これは、医師が目の前の課題に柔軟に対応しながら、自分の力を高め続けるために欠かせない力です。

また、久留米大学の建学の精神である「国手の矜持(ほこり)は常に仁なり」は、研究と臨床の双方を大切にし、思いやりをもって医療にあたる姿勢を重視する教育方針の根幹です。今回の研究成果は、この精神を裏づけるとともに、研究と臨床を結びつけた、実践的で人間味ある医師教育の可能性を示しています。

本研究成果は、日本医学教育学会誌『医学教育』第56巻第2号(2025年4月28日発行)に掲載されました。

 <論文リンク(J-STAGE)>
青木浩樹, 菊川誠. 臨床能力獲得における学位研究経験の意義に関する調査. 医学教育56巻(2025)2号, 99 - 112ページ(2025年4月28日発行)

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