研究・産学官連携の研究TOPICS 医師の「診る力」は研究で磨かれる:大学での学位研究が臨床力を育てる可能性、全国初の実証研究

「臨床医になるには研究なんて必要ない」と言われることがあります。その考えに一石を投じる研究成果が発表されました。久留米大学と九州大学の共同研究によって、医師が大学での研究経験を通じて診療に必要な力を育てていることが、2段階の研究で初めて実証的に明らかになりました。
本研究の第1段階では、久留米大学医学部の臨床講座に所属する医師を対象に、研究経験と臨床能力の関係を調査しました。その結果、研究を通して育まれた「論理的思考力」「問題解決能力」「チームマネジメント」などの力が臨床に活きていることを医師自身が実感していることが分かりました1。
さらに第2段階では、様々な臨床能力はバラバラに存在するのではなく互いに関連し、「個人として発揮される力」と「他者と関係する中で発揮される力」に分類されることが判明しました2。

この研究から、研究活動では臨床能力がバラバラにつくのではなく、臨床能力の構造が形作られていくと考えられます。学位研究は、臨床力をより深く鍛える実践の場であり、医師としてのあり方そのものを見つめ直す機会でもあります。この研究は医療の未来を担う若者たちに、研究経験が持つ意味を見直すきっかけとなるでしょう。
<論文リンク(J-STAGE)>
1.青木 浩樹、菊川 誠:「臨床能力獲得における学位研究経験の意義に関する調査」,医学教育56巻(2025)2号,99-112ページ (2025年4月28日発行)
2.青木 浩樹、菊川 誠:「医師による臨床能力項目の自己認識構造の分析」,医学教育 56巻(2025)3号,177-180ページ(2025年6月28日発行)