研究・産学官連携の研究TOPICS 上田泰己特別招聘教授をリーダーとする研究がNatureに掲載 ~分子メカニズム解明で「眠気」などの理解深める~
JST戦略的創造研究推進事業 ERATOにおいて、東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野の上田 泰己 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 合成生物学研究チーム チームリーダー兼任、久留米大学 特別招聘教授兼任)、王 乙萌 博士課程大学院生と曹 思鈺 博士課程大学院生、大出 晃士 講師らは、哺乳類において、プロテインキナーゼA(PKA)と呼ばれるたんぱく質リン酸化酵素が覚醒の促進を、脱リン酸化酵素であるプロテインホスファターゼ1(PP1)とカルシニューリンが睡眠を促進することを発見しました。
近年、脳の神経細胞に存在するさまざまなたんぱく質のリン酸化と呼ばれる化学修飾の状態が、睡眠と覚醒に応じて動的に変動することが観察されてきました。一方で、睡眠と覚醒の制御に関わるリン酸化を促進するたんぱく質リン酸化酵素と、リン酸化修飾を外すたんぱく質脱リン酸化酵素がどのような酵素群なのかは、十分に解明されていませんでした。
本研究グループは、PKAとたんぱく質脱リン酸化酵素に着目し、網羅的な遺伝子ノックアウトマウスの作製や、ウイルスベクターを用いた機能改変型の酵素の発現誘導実験から、PKAの活性化によって睡眠時間と睡眠圧(眠気)の指標が低下すること、PP1およびカルシニューリンの活性化によって逆に睡眠時間と眠気の指標が増加することを発見しました。これらの覚醒および睡眠の促進活性は、PKA、PP1とカルシニューリンが神経細胞間の情報伝達を担うシナプスで働くことが重要であり、さらに睡眠と覚醒の促進が互いに競合的に働くことで、1日の睡眠時間が調節されている可能性が示されました。
本研究により、複数の酵素の働きで睡眠と覚醒のバランスが調整されていることが明らかになり、睡眠時間や眠気をコントロールする方法を分子レベルで考える上で重要な知見となります。
本研究成果は、2024年11月6日(現地時間)発行の英国科学誌「Nature」に掲載されました。
詳しくは以下「国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)」のページをご覧ください。