地域貢献のTOPICS ADHDの夏休み治療プログラム(くるめSTP)を4年ぶりに対面開催しました

ADHDの夏休み治療プログラム(くるめSTP)を4年ぶりに対面開催しました

「くるめSTP」は、医学部小児科学講座主任の山下裕史朗教授の呼びかけによって2005年にスタートした治療プログラムです。ADHD(注意欠如・多動症)と診断された子ども達が、学校生活によりよく適応するために必要な学習やスポーツ、対人関係のスキル獲得や自分の感情をコントロールする力を育成することを目的とした治療プログラムで、毎年夏休みの期間で実施しています。コロナ渦の3年間はオンラインのセミナー開催となりましたが、今年は4年ぶりに従来通りの対面で開催されました。

この治療プログラムは、NPO法人くるめSTPとくるめSTP実行委員会が主催し、久留米大学医学部医学科、看護学科、文学部心理学科、福岡県臨床心理士会、久留米市教育委員会に所属するスタッフ及び学生ボランティアの協力のもとで運営されている全国的にも珍しい多職種共働プロジェクトです。文医融合を目指す久留米大学のモデルプロジェクトとも言えます。


リードカウンセラーと心理学を学ぶ学生が、子どもたちとルールの確認をする様子
リードカウンセラーと心理学を学ぶ学生が、子どもたちとルールの確認をする様子
大学生の頃からSTPに参加し、指導経験のあるリードカウンセラーが複数います
大学生の頃からSTPに参加し、指導経験のあるリードカウンセラーが複数います
実際にスポーツをしながら、ルールに従うことやスポーツマンシップな態度、大人の要求や指示に従うこと、仲間との助け合いを学習します
実際にスポーツをしながら、ルールに従うことやスポーツマンシップな態度、大人の要求や指示に従うこと、仲間との助け合いを学習します
常に、望ましい行動には加点、不適切な行動は減点を受けます
常に、望ましい行動には加点、不適切な行動は減点を受けます
加点減点の行動は即座に理由を述べられます。加点の際は皆から褒められますが、減点は責められることはありません
加点減点の行動は即座に理由を述べられます。加点の際は皆から褒められますが、減点は責められることはありません
ボランティアで延べ20名の看護学科生が参加
ボランティアで延べ20名の看護学科生が参加
学習の場も学校に近い状況を再現し行動を学びます
学習の場も学校に近い状況を再現し行動を学びます
STPではどの場面においても一貫して行動をポイントで示し、それを子どもたちが認識できる工夫がされています
STPではどの場面においても一貫して行動をポイントで示し、それを子どもたちが認識できる工夫がされています
人前で褒められ加点されることで、子どもたちの望ましい行動が強化されていきます
人前で褒められ加点されることで、子どもたちの望ましい行動が強化されていきます
作業に集中する子どもたち
作業に集中する子どもたち

スタッフの後藤さんのコメント(かつてADHD児として2回くるめSTPに参加した経験があります)

今年はコロナ後の再始動ということで参加人数も少なかったり、先生方も慣れない部分があると思いますが、僕は経験者なのでしっかりお役に立ちたいと思います。参加している子どもたちを見ると、その姿はかつての自分の姿と重なります。私はこのプログラムに2回参加していますが、この経験がなければ日常生活はちょっとやっていけないなと思うほどすごくいい経験でした。当時の先生方には苦労をかけたと思いますが、感謝しています。私は今、Medical Engineer(臨床工学士)を目指して勉強しています。ADHDというのは、知能に問題があるわけではなく、日常生活で多くの人が問題なくできることが苦手という特徴があります。このプログラムでそれを克服することができれば、もう普通に生きていける。ひと夏経験するだけでも全然変わると思います。先生方に褒められるということもなかなか日常生活ではないので子どもにとっては励みになりますし、自分で学べることは大きいです。私が参加したころはまだ発達障害への理解があまりなかったのですが、今はだいぶ社会の理解が拡がっているのでそれも良いことだと思っています。


ボランティアで参加した看護学科生のコメント

小児看護に興味があり、はじめて参加しました。褒められたら喜んだり、それぞれ力いっぱい取り組んでいる子どもたちの姿を見て、ADHDのことは授業で習ってはいましたが、効果的な声掛けなど周りのアプローチで、子どもたちをサポートできることがわかりとても勉強になりました。


コロナもあってなかなかボランティアに参加できなかったことと、発達障害について知れる機会だと思い参加しました。事前説明会も含め、実際の現場に携われることはとても勉強になります。



実行委員長 山下裕史朗先生のコメント

医学部小児科学講座の山下裕史朗主任教授
医学部小児科学講座の山下裕史朗主任教授

やっとSTPが戻ってきたなと嬉しく思います。2005年から15年の活動がありましたが、その後コロナがあり4年間対面での開催を見送りました。再開するにあたっては皆さんの協力が不可欠でした。子どもたちの成長はもちろんですが、多職種連携のプログラムという意味でも、やはりやっている意味は大きいと感じます。

日本では多職種連携の文化が育っていないこともあり、それがこのプログラムの普及が難しい理由にもなっていますが、久留米市は幸い昔から教育や医療、福祉、心理関係者の連携が良くできているため、この活動を続けることができています。この活動を通してさらにその連携体制が強化されているとも言えます。

このプログラムはアメリカのプログラムをベースにして行っています。活動のルールは、アメリカのルールと全く同じで、子どもが学ぶべきルールは洋の東西問わずユニバーサルです。子どもがルールを学べるとても有効な方法です。夏休みが短くなったため2週間という実施が難しく、今は1週間と期間は短くなっていますが、それでも参加すると子どもたちは変わります。今後はプログラムを修了した方のフォローをするブースターセッションのようなものもやれたらいいなと思います。


ADHD(注意欠如・多動症)とは

ADHDとは、発達水準からみて不相応に注意を持続させることが困難であったり、順序立てて行動することが苦手であったり、落ち着きがない、待てない、行動の抑制が困難であるなどといった特徴が持続的に認められ、そのために日常生活に困難が起こっている状態です。12歳以前からこれらの行動特徴があり、学校、家庭、職場などの複数の場面で困難がみられる場合に診断されます。診断される子どもの割合は学童期の子どもの3~7%であり、男児のほうが女児より3-5倍多いと言われています。
ADHDがある学童は、学校ルールへの対応が苦手で学校生活ではマイナス評価を受けやすく、そのために自己肯定感が傷つくことも少なくありません。養育者が子育てで悩みを抱えていることもしばしばです。

くるめSTP(Summer Treatment Program)とは

STPは、ADHDをもつ子どもたちのための行動療法をベースとした夏期集中治療プログラムで、アメリカでは40年以上の歴史があり、現在は北米20ヶ所で行われています。

STPには、治療、研究、教育の3つの機能があり、参加した子ども達にエビデンスに基づく効果的な治療法を提供するだけでなく、行動療法、薬物療法、両者の併用療法の効果検証など、ADHDの理解に貢献する莫大な研究が行われてきました。

ニューヨーク州立大学でペラム教授が実践されていたこのプログラムに、小児科学講座の山下裕史朗教授は2003年に出会い、2005年に北米以外では世界初の「くるめSTP」を立ち上げました。くるめSTPは夏期休暇中の8月中旬の1週間に日帰りで行われ、久留米特別支援学校に通います。対象となる子ども達は、医療機関でADHDの診断を受けた知的障害のない小学2〜6年生です。医師・看護師、心理士、教育スタッフのスーパーバイズのもと、カウンセラー(研修を受けた大学生、大学院生)が中心となって子ども達の指導にあたります。毎日約7時間を学習センターやレクリエーション活動で過ごし、グループ行動、友達や大人との適切な関わり方を学びます。


くるめSTPの組織

くるめSTPは、医療部会、心理部会、教育部会の3つの部門で構成されており、それぞれ連携して効果的なSTP運営を担っています。

【医療部会】

久留米大学医学部小児科医師、医学科学生、看護学科看護師、看護学科学生

【心理部会】

リードカウンセラー:臨床心理士(スクールカウンセラー)

学生カウンセラー:久留米大学文学部心理学科の大学生、久留米大学心理学研究科の大学院生

【教育部会】

久留米市立小学校教員

大学生:心理学科・教職課程



くるめSTPは、毎年50人以上の運営運営スタッッフ(医師、看護師、教員、臨床心理士、事務局、学生)が参加し、それぞれの役割を果たしています。STP参加経験のある学生が大学卒業後にボランティアとして参加するケース、さらにはADHD児として参加した当時の学童がボランティアに参加するケースもあります。くるめSTPは、治療以外に研究、教育(次世代育成)の役割も大きく、ここに関わる全ての人たちの熱意と努力、協働の力で実施されています。


NPO法人くるめSTP

地域貢献TOPICS

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