地域貢献のTOPICS ADHD児のための夏休みプログラム「くるめSTP」を開催

ADHD児のための夏休みプログラム「くるめSTP」を開催

8月18日(日)~8月23日(金)の6日間にわたって、ADHD児のための夏期治療プログラム「くるめSTP(くるめサマー・トリートメント・プログラム)」が開催されました。

今年度は久留米大学御井キャンパスを会場として、小学校2年生~5年生までの児童11名が参加し、通常の学級や通院治療では十分にアプローチしにくい学習スキルやソーシャルスキル、スポーツスキルなどの改善向上に取り組みました。



ADHD(注意欠如・多動症)とは

ADHDとは、発達水準からみて不相応に注意を持続させることが困難であったり、順序立てて行動することが苦手であったり、落ち着きがない、待てない、行動の抑制が困難であるなどといった特徴が持続的に認められ、そのために日常生活に困難が起こっている状態です。12歳以前からこれらの行動特徴があり、学校、家庭、職場などの複数の場面で困難がみられる場合に診断されます。診断される子どもの割合は学童期の子どもの5~10%であり、男児のほうが女児より3-5倍多いと言われています。
ADHDのある学童は、学校ルールへの対応が苦手で学校生活ではマイナス評価を受けやすく、そのために自己肯定感が傷つくことも少なくありません。養育者が子育てで悩みを抱えていることもしばしばです。

リードカウンセラーと心理学を学ぶ学生が、子どもたちとルールの確認をする様子
リードカウンセラーと心理学を学ぶ学生が、子どもたちとルールの確認をする様子
大学生の頃からくるめSTPに参加し、指導経験のあるリードカウンセラーが複数います
大学生の頃からくるめSTPに参加し、指導経験のあるリードカウンセラーが複数います
実際にスポーツをしながら、ルールや仲間との助け合いを学習します
実際にスポーツをしながら、ルールや仲間との助け合いを学習します
常に、望ましい行動には加点、不適切な行動は減点を受けます
常に、望ましい行動には加点、不適切な行動は減点を受けます
STPではどの場面においても一貫して行動をポイントで示し、それを子どもたちが認識できる工夫がされています
STPではどの場面においても一貫して行動をポイントで示し、それを子どもたちが認識できる工夫がされています
学習の時間は学校に近い状況を再現して行動を学びます
学習の時間は学校に近い状況を再現して行動を学びます

STP と くるめSTP

STPは、ADHDのある子どもたちのための行動療法をベースとした夏期集中治療プログラムで、アメリカでは40年以上の歴史があり、現在は北米20ヶ所で行われています。
STPには、治療、研究、教育の3つの機能があり、参加した子ども達にエビデンスに基づく効果的な治療法を提供するだけでなく、行動療法、薬物療法、両者の併用療法の効果検証など、ADHDの理解に貢献する莫大な研究が行われてきました。

ニューヨーク州立大学でペラム教授が実践されていたこのプログラムに、小児科学講座前主任教授の山下裕史朗先生(2024年3月退職)は2003年に出会い、2005年に北米以外では世界初の「くるめSTP」を立ち上げました。くるめSTPは夏期休暇中の1週間に日帰りで行われます。対象となる子ども達は、医療機関でADHDの診断を受けた知的障害のない小学2〜6年生です。今年は20年目の開催となりました。

STPの一番の目的は、子どもの学校・家庭での社会的適応促進です。治療のゴールは、問題解決スキル、ソーシャルスキル、スポーツスキルなどの社会的認識を育てることと学習スキルの獲得です。
フィードバックのツールとして加点減点が使われています。目的が達成されていくと大人の指示に従うことや、課題をやり遂げる能力を伸ばすことができ、結果的に自信と自尊心が改善されます。
保護者にとっては、子どもの前向きな変化をどのように伸ばして維持していくかを学ぶ機会を得ます。

この治療プログラムは、NPO法人くるめSTPとくるめSTP実行委員会が主催し、久留米大学医学部医学科、看護学科、文学部心理学科、福岡県臨床心理士会、久留米市教育委員会に所属するスタッフ及び学生ボランティアの協力のもとで運営されている全国的にも珍しい多職種共働プロジェクトです。
文医融合を目指す久留米大学のモデルプロジェクトとも言えます。

6日間を通して同じ学生(心理学科)が子ども達に寄り添います
6日間を通して同じ学生(心理学科)が子ども達に寄り添います
看護学科の学生スタッフは、体調管理や水分補給を担当しています
看護学科の学生スタッフは、体調管理や水分補給を担当しています
それぞれの子どもの行動を観察し、メモする様子
それぞれの子どもの行動を観察し、メモする様子
学習時間が終わった後、観察した大人が全員で振り返りを行っています
学習時間が終わった後、観察した大人が全員で振り返りを行っています

くるめSTP表彰式

担当の学生カウンセラーから表彰を受ける児童
担当の学生カウンセラーから表彰を受ける児童
久留米市教育委員会 東野淳主幹
久留米市教育委員会 東野淳主幹
くるめSTP代表 山下裕史朗先生
くるめSTP代表 山下裕史朗先生

最終日には、保護者も参加して「表彰式」が行われました。

久留米市教育委員会の東野淳主幹からは、「皆さん大変よく頑張りました。楽しかったと感じられたのは、お互いに思いやりを持ち、ルールを守れたからです。自信を持って学校生活を送ってください」との挨拶がありました。
また、くるめSTP代表の山下裕史朗先生からは、「寄付や協賛、そして多くの方々のご協力により、今年も無事に開催できました。この頑張りを自信にして、2学期も頑張ってください」と感謝と激励の言葉が贈られました。

参加した児童全員は、担当の学生カウンセラーからそれぞれの頑張りを表彰され、特別賞も発表されました。子どもたちは、仲間と協力して過ごした時間を喜びの中で振り返りました。

くるめSTPの組織と意義

くるめSTPは、医療部会、心理部会、教育部会の3つの部門で構成されており、それぞれが連携して効果的なSTP運営を担っています。

【医療部会】
久留米大学医学部小児科医師、看護師、学生(医学科、看護学科)

【心理部会】
リードカウンセラー:臨床心理士(スクールカウンセラー)
学生カウンセラー(久留米大学文学部心理学科、久留米大学大学院心理学研究科)

【教育部会】
久留米市立小学校教員
学生(久留米大学・教職課程)


くるめSTPには、毎年50人以上の運営スタッフ(医師、看護師、教員、臨床心理士、事務局、学生)が参加し、それぞれの役割を果たしています。今年は文学部心理学科の学生8名が60時間以上の事前研修を受け参加しており、そのほかにも教職課程を学ぶ学生や20名の看護学科の学生も参加しました。本学の学生以外にも、心理学研究科の学生や音楽教育を専攻する学生などが参加しています。また、特別支援学級教員、小学校教員、そして過去にADHD児として参加した学童もボランティアとして関わっています。

このように、くるめSTPはADHD児の治療だけでなく、研究や次世代育成を含む教育の面でも大きな役割を果たしており、関わる全ての人たちの熱意と協働によって実施されています。



心理学科学生のコメント

学生カウンセラーとして、学習センター以外の時間を子どもたちと過ごしました。朝の会やサッカーの練習、レクリエーションや自由時間など、1日の進行を管理し、子どもたちと過ごします。常にルールに合った行動かを意識し、適切な声掛けをしていくのは大変でした。STPの経験豊富な臨床心理士の先輩方にいろいろ教えていただきました。子どもたちが帰った後も毎日、時間をかけてミーティングを行い、振り返りをすることで、やっていることの意味が自分の中で納得に代わっていきました。

好ましい行動、好ましくない行動が起こったら、すぐに言葉であらわし加点、減点するのですが、これがとても難しかったです。複数の子ども達がいて、全体の流れが見えていないと、行動を見落としたり、間違えたりします。ポイントは子どもたちのモチベーションに大きく関係するので、終始緊張していましたが、子どもたちが達成感の中で、良い変化を遂げていく姿を隣で見ることができたのはとてもいい経験でした。

看護学科生のコメント

小児科の看護師を希望しており、ADHD児について知りたいと思い参加しました。多動や注意欠如という症状もかなり個人差があることがわかり勉強になりました。

行動療法の効果はどれくらいあるのか、実際に見られるのは貴重だと思い参加しました。事前の説明会もあり、子どもたちの特性に合った接し方について学びがありました。

傾聴という方法について看護学科ではよく学びますが、大人の患者さんとは違い、子どもはもともと甘える力も多く持っているので、心を受け止めつつ、できるよと後押しするような関わり方も必要だと感じました。みなさん元気でかわいかったです。

NPO法人くるめSTP