研究・産学官連携の研究TOPICS 【研究者インタビュー】人間健康学部 濵﨑 裕子 教授(現:地域連携センター顧問)

【研究者インタビュー】人間健康学部 濵﨑 裕子 教授(現:地域連携センター顧問)

本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。

人間健康学部 学部長 濵﨑裕子 教授

所属部署について教えてください

2017年に、医学部を持つ強みを生かした、いわゆる「文医融合」を掲げ新設された「人間健康学部」で学部長※をしています。(※取材当時)
人間健康学部は、文系でありながら医学部教授陣の授業を受けることができるのも特徴の一つです。保育学や幼児教育学をベースに医学や心理学、社会学、福祉学など幅広い分野にわたり学び、保育士や幼稚園教諭などの資格が取得できる「総合子ども学科」と、人間の身体やスポーツ医学、スポーツ科学についての科学的・専門的な知識を学び、中学校・高等学校一種教諭免許(保健体育)などの資格が取得できる「スポーツ医科学科」の2つの学科があります。その総合子ども学科で「発達環境論」や「ユニバーサルデザイン論」を教えています。

どのようなことを行っているのですか

文学部の社会福祉学科に所属していた時は、「福祉環境論」や高齢者を地域で支える「地域福祉」を教えていました。今は総合子ども学科で、子どもの発達にとって大事な環境づくりや、園舎・園庭の設計からまちづくりまで、子どもに関わる環境デザインを発達環境論の中で教えています。また「地域で子育て」の実践である「こども食堂」など地域で子どもを支えるような取り組みにも参加しています。

大学は工学部建築工学科で、大学院の時は人が集まって仲良く暮らすためにはどれくらいの規模の居住地コミュニティを作ると近隣関係がうまくいくかといった「人のつながりと集合住宅計画」について研究をしていました。今はコミュニティで、地域の人たちが集まって人と人がつながっていく場をどう作っていくのか、そういった「居場所づくり」に関する研究をしています。テーマは代わりましたが、人々が快適に過ごせる場所についてハードとソフトの関係性を考えるスタンスは変わっていません。

昨年、イタリアでコミュニティの福祉拠点となっている居場所の事例を視察に行きました。
イタリアは、移民も多く、様々な社会問題も抱えていますが、広場やカフェなど、いろいろなところに人が集まって話をしています。幼児教育にもとても熱心で、人が集まる場所には子どもが過ごせる場所として「子ども図書室」などがあり、そこで大人は音楽やダンス、語学を学ぶといった、居場所づくりがなされています。共生社会をどう作るかというヒントとして、日本でも重要な参考事例になるのではないかと思います。また、子育て世代包括支援のモデルであるフィンランドのネウボラの調査も得るものが多くあり、今後も研究を続けていきたいと思います。

イタリアの「屋根のある広場」(図書館)
イタリアの「屋根のある広場」(図書館)
フィンランドの幼稚園
フィンランドの幼稚園
この道に進むことになったきっかけから、これまでの歩みを教えてください

大学院修了後、企業に就職しましたが、再び建築の勉強をするためにアメリカの大学院に進学しました。福祉関係に進むようになったのは、母親の認知症がきっかけです。当時はアルツハイマー病といった言葉もあまり聞かれない時代でしたが、アメリカから帰国して認知症に関連する1冊の洋書に出合いました。その本は、「認知症は医学では治らないが、環境を良くすることによって症状が緩和する」という内容のもので、環境が認知症にとって治療的効果をもつことを知り、その本を翻訳・出版したことがきっかけで、福祉関係の建築にも携わるようになりました。

今は少子高齢社会で何を考えるにも福祉的な発想が大事になりますので、この分野に進んでよかったと思います。また、福祉現場の方から直接話を聞くと、人を支えることに燃えている熱意や奥深いヒューマニティを感じ、その方たちとの出会いも福祉活動の継続につながっています。

これまでの研究活動のなかで、特に大きな転機はありましたか?

アメリカの大学院で得た「学ぶ」ことの価値観と先に述べた本との出合いです。その後、介護も長引き、認知症ケアに関わる方ともやりとりをすることが多くなり、独自に勉強しながら福祉と建築、両方をまたぐ研究をするようになりました。もともと、まちづくりに非常に興味を持っていたので、地域で認知症の方の在宅生活を支えるためのNPO法人などにも参加するようになり、コミュニティ福祉を教えるようになりました。この本との出合いがなければ、都市計画コンサルタントのような仕事を続けていたかもしれません。

研究が進まない時期、どうやって乗り越えましたか

研究が進まないというより、育児や親の介護で仕事ができなくなった時に、どのように仕事をしていくかという問題に直面しました。それを乗り越えるために、常に先のことを考えて行動するようにしていました。アメリカから帰国後、ダブルケアでどうしても企業で働くことができなくなり、大学の非常勤講師になりました。同時に自分で設計事務所を構えてプロジェクトごとに仕事を受けるような在宅での働き方も経験しました。そこからさらに研究のすそ野を広げ、次につなげようと、40代後半で博士課程に入り、専任の大学教員になりました。与えられた環境の中でどう生き残るかを考え、先を見据えて行動することが大事だと思います。

お仕事以外に大事にしているものはありますか

友人はとても大事にしています。大学の友人とは毎年旅行に行っていますし、地元に帰れば小学校、中学校の時の友人が迎えてくれます。近所でも子育て時代に一緒に親子で遊んだママ友ともよいお付き合いをさせていただいていて、たくさんの人に支えられているのを感じます。

現場から離れて気分転換や休日にはどんなことをされていますか

スポーツです。大学の時は弓道部に所属していました。今は毎週の水泳と週末に時間があれば山歩きをして身体を鍛え、夏には立山や白山といった山に登り、冬はスキーを楽しんでいます。昨年、日本で富士山に次いで高い北岳にも登りました。

山登りを始めたのは、高校で仲の良い同級生が声をかけてくれたことがきっかけで、友人10人ぐらいと山小屋に泊まって、いろいろなことを語り合い、よいリフレッシュになっています。


北岳山頂にて
北岳山頂にて
スキー場で
スキー場で
現場での活動を通して社会や人にどのようなことをもたらしたいと思いますか

「福祉」と「まちづくり」両方の分野の経験と大学教授という立場から、さまざまな自治体や団体の委員会に呼ばれ、意見を求められることが多くあります。大学の中だけの活動にとどまらず地域活動も行っていますので、そこで出会った現場の生の声を行政に反映させることは、自分の特性を生かしてできることと認識して、積極的に参加しています。委員会は地元久留米市だけでなく、福岡市、朝倉市などそれぞれの特性に応じた計画づくりに役立ててもらえているのではないかと思います。

研究者を目指す方や学生の皆さんにメッセージをお願いします

学問に限らず、自分が好きなことに熱中する、興味があることを深めていくことが大事だと思います。やれと言われてやるのではなく、自ら好奇心をもって、これだと思えるものを見つけて極めていってほしいです。

また、目の前のことから1歩先を考えることも忘れずに学んでいってほしいと思います。人間健康学部で言えば、保育士や幼稚園教諭、スポーツ関係の資格や中学高校の保健体育教諭の免許などさまざまな資格が取れる学部ですが、資格を取ることがゴールではなく、あくまで通過点と考えて、それを使いながら、どう社会で役立つかという、次のことを考えて大学生活を送り、自分の力で生きていける力を身に付けていってほしいと思います。

久留米大学が「地域の『次代』と『人』を創る研究拠点大学」を目指していることについて

「次の時代とそれを担う人を創る」という意味では、人間健康学部で学んだ学生が、保育園や幼稚園で子どもを育てたり、スポーツの次世代を担う人材を育てたりと、学部全体で「人づくり」は重要な役割となっています。まさにこのテーマに一致した学部として、これからも「人間力」のある学生を育てていきたいと思っています。

人間健康学部長としてメッセージをお願いします

「人間健康学部」は、そのネーミングからしても人の身体と心、そして社会の健康を支える今の時代にふさわしい学部で、学生の皆さんにも社会に出たときにそれを実感できるような社会人になってほしいと思っています。

私もそうですが、社会に出てから、大学のあの時もっとこんな勉強をしておけばよかったと感じるものだと思います。そんなときに、さらに知識を深めるために大学で学び直すこができるような奥深い教育を提供でき、卒業した後も教員と学生が結びついて一緒になって成長していける学部にしていきたいと、初代学部長として思っています。

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略歴

1975年 大阪大学工学部建築工学科卒業
1977年 大阪大学工学部建築工学科大学院修了
1982年 テキサス大学大学院建築環境デザイン科修了
2002年 千葉大学大学院自然科学研究科人間・地球環境科学専攻博士課程修了
2004年~2010年 長崎国際大学人間社会学部社会福祉学科
2010年~2016年 久留米大学文学部社会福祉学科教授
2014年~2016年 久留米大学文学部長
2017年4月~ 久留米大学人間健康学部長

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