研究・産学官連携の研究TOPICS がん悪液質治療薬 アナモレリンが結合したグレリン受容体構造を解明

本学 分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門の椎村祐樹 助教、松井一真 大学院生、児島将康 客員教授と、岩田想 教授 (京都大学)、増保生郎 博士 (米国サンフォード研究所) らを中心とした国際共同研究チームは、千葉大学、大阪大学、京都工芸繊維大学の研究者らと共同で、がん悪液質治療薬であるアナモレリン (エドルミズ®️) が結合したグレリン受容体 の立体構造を決定しました。
また薬理学解析によって、アナモレリンがグレリン受容体のスーパーアゴニスト (内因性作動物質であるグレリン(*1)よりも強力に作用する薬剤) として作用すること、さらに構造情報を活用して一塩基多型が薬剤の効果に影響を与える分子基盤を明らかにしました。
グレリン受容体は、様々な生理作用に関わる重要な分子であり、本研究によって得られた構造情報は、成長ホルモン分泌不全症や摂食障害、心不全治療薬の設計に役立つことが期待されます。また遺伝的多様性による薬効変化を構造情報に基づいて立証した本研究は、個別化医療の実現に向けた重要な知見をとなることが考えられます。
本研究成果は、2025年1月20日に、Nature Structural & Molecular Biology (※) に掲載されました。
- タイトル:The structure and function of the ghrelin receptor coding for drug actions
- URL: https://www.nature.com/articles/s41594-024-01481-6
- 掲載雑誌:Nature Structural & Molecular Biology
※ 国際的に評価の高い構造生物学の専門誌 (インパクトファクター:12.5 (2023年))
主な研究の成果
- がん悪液質治療薬であるアナモレリンと結合状態にあるグレリン受容体-Gqタンパク質複合体の立体構造を初めて決定し、アナモレリンの結合様式を解明。
- リガンドに応じた受容体のユニークな構造変化が、シグナル伝達に多様性をもたらすことを解明。
- 構造情報を活用して一塩基多型が薬剤作用に与える要因を特定し、構造情報、ゲノム情報、薬理学プロファイルの統合が、個別化医療の発展に寄与できる可能性を提供。
今後の展望
本研究によって、グレリン受容体標的医薬品の設計を促進する、立体構造情報を拡充することができました。さらに、構造情報を活用することで、シグナル伝達の分子基盤や遺伝的多様性の影響を論理的に理解する新たな枠組みを提示しました。これにより、個別化医療における薬剤選択の精度向上が期待され、さまざまな疾患の治療に向けた新たな治療法の基盤を構築することができると考えられます。
研究者の情報
久留米大学 分子生命科学研究所
助教 椎村 祐樹
客員教授 児島 将康
国立大学法人 京都大学大学院 医学研究科
教授 岩田 想 (理化学研究所 放射光科学研究センター グループディレクター 兼任)
助教 林 到炫
米国 サンフォード研究所 (Sanford Research)
Assistant Scientist 増保 生郎 (サウスダコタ大学 Assistant Professor 兼任)
博士研究員 谷猪 遼介
国立大学法人 千葉大学大学院 理学研究院
教授 村田 武士
国立大学法人 大阪大学 蛋白質研究所
教授 加藤 貴之
国立大学法人 京都工芸繊維大学
准教授 岸川 淳一
プレスリリースはこちら (PDF)用語説明
(*1) グレリン
久留米大学 児島将康客員教授らによって発見されたペプチドホルモンで、成長ホルモン分泌促進作用のほか摂食亢進作用、体温調節作用などを持つことから“エネルギー貯蓄ホルモン”として知られる。