研究・産学官連携の研究TOPICS 大学病院の宮本臨床検査技師の研究が「コメディカル臨床研究助成」に採択

大学病院臨床検査部の宮本直樹さんの研究が、医療・生命科学領域の研究や技術開発を奨励・助成する「公益財団法人臨床研究奨励基金」による令和6年度の「コメディカル臨床研究助成」※に採択されました。
※臨床検査技師を含むコメディカルの医療従事者等に特化した臨床研究助成で、医学、医療、生命科学に関する研究や技術開発における研究者育成の観点から、独創性と計画性豊かな研究開発を行う若手研究者に助成することで、この分野の進歩、発展に寄与することを目的としたもの。(公益財団法人臨床研究奨励基金Webサイトより)
- 研究テーマ:乳がん患者におけるESR1遺伝子変異獲得のスクリーニング法の基礎検討
宮本さんは、現在大学病院の臨床検査部で臨床検査技師として勤務し、細菌検査室で細菌検査業務やB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、新型コロナウイルスなどの検査を担当しています。
本学の臨床検査技師が勤務する大学病院の臨床検査部および医療センターの臨床検査室では、医師や先輩技師指導のもと行う研究活動を通して個々の能力向上を図っています。また、2024年4月に開設された医学部医療検査学科で、それぞれの医療機関における高精度な検査データを迅速に提供するための優秀な人材を育成しています。
参考:臨床検査部の研究業績
宮本さんのコメント
臨床検査部長の内藤 嘉紀准教授から勧めていただき、今回応募しました。令和4年度にも別の研究で助成申請をしましたが、その時は不採用だっただけに、採択の連絡を受けた時には驚きとともに喜びも大きかったです。この助成を励みに、研究にさらに力を注いでいきたいと思います。


「研究テーマについて」
2022年にコロナウイルスの解析を目的として次世代シーケンサ(NGS)が細菌検査室に導入されました。これをきっかけに、翌年からNGSを活用したがん遺伝子パネル検査に関する特定臨床研究に参加する機会をいただきました。私は普段、細菌検査室での業務を担当していますが、この研究への参加を通じてがん遺伝子に関する知識を深めることができました。その中で、特にがんのモニタリング検査に興味を持ち、乳腺外科分野での研究計画を立てました。
この研究では、血液からがん遺伝子を抽出・解析し、進行や治療効果のモニタリングする新しい検査法の可能性を探ります。血液検査という形で、比較的低コストかつ低侵襲で検査が可能となるため、患者さんの負担を軽減しつつ、がん診療への新たな貢献が期待されています。
今回の助成金採択が、臨床検査部内での研究意識の向上や、臨床検査技師や学生の研究活動への関心を高めることにつながり、将来的にがん医療やがんゲノム検査の発展に寄与できれば嬉しいです。
「臨床検査技師という仕事について」
臨床検査技師を目指すきっかけは何でしたか?
高校生の時に、色々な職業を調べる中で、臨床検査技師という職種を知りました。高校生の時は、検査はすべて医師が行っていると思っていましたが、調べていく中で、診療行為の基盤となる検査全般を担っている職種だと分かり、興味を持ちました。
臨床検査技師の仕事の魅力ややりがいは何ですか?
臨床検査技師の業務は、よく「縁の下の力持ち」と表現されることがあります。
医療行為を行うための科学的裏付けを、我々が日々担っていることこそが、この職種の魅力と考えています。また、この職種は、生化学・免疫検査、血液検査、凝固検査、生理機能検査、細菌検査、病理検査、とさまざまな分野に分かれ、専門性を持っています。私の専門は、細菌検査ですが、現代でも専門的な検査機器を使うだけでは正しい検査結果を出すことはできず、多くの場面で技師の知識・経験・技術を要します。通常の検査に加え、知識や技術を生かすことで、病名と関連する起炎菌や病態と関係が深い菌種を見つけ出せたときには、とても貢献できていると感じます。この瞬間が、この仕事のやりがいとも言えるでしょうか。


「現在担当している細菌検査室での仕事について」
細菌検査業務全般とB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、新型コロナウイルス検査を担当しています。
細菌検査は、感染症が疑われる患者さんから採取された検査材料(喀痰、尿、血液、糞便など)から、起炎菌(感染症の原因菌)の同定と薬剤感受性を提供することが主な目的です。
例えば、サルモネラ菌のような特定の菌を対象とする場合には、その菌が存在するかどうかを調べる検査を行います。しかし、多くの場合は特定の菌を対象とするのではなく、「培養同定」(培養を行い、炎症の原因となる菌を見つける)という形で検査が進められます。そのため、細菌検査では、患者さんの年齢、病気の状態、入院か外来かといった情報をもとに、原因菌や耐性菌を予測しながら検査を進める必要があります。
さらに、原因となる菌種を特定するだけでなく、ヒトや環境、食品などさまざまな由来を持つ菌についても深く理解しておく必要があり、この分野は非常に専門性も求められます。近年では、質量分析装置や遺伝子検査の普及により、これまで教科書にも載っていなかった新しい菌による感染症が次々と報告されています。このような新しい菌に対応するため、学会誌や論文を通じた情報収集を欠かさず行っています。また、コロナのパンデミック以降、目覚ましい進歩を遂げている遺伝子解析の分野には特に注目しています。
「未来の臨床検査技師を目指す高校生へのメッセージ」
臨床検査技師はさまざまな専門分野に分かれ、業務を行っています。
専門分野については、多くの場合、入職した病院や検査センターでの配置により決まります。また、違う分野へ異動することも多くあります。そのため、学生時代に目指した分野とは異なる分野に取り組むことも多くありますが、それが新たな発見や成長につながることも少なくありません。ちなみに、私は学生時代には微生物学が得意ではありませんでしたが、今では興味を持って取り組んでいます。
ですので、高校生の皆さんには、好き嫌いにとらわれず、さまざまなことにチャレンジする姿勢を持ってほしいと思っています。その経験がきっと、将来の糧になると思います。
久留米大学では、経験豊富な先生方や先輩技師のご指導のもと、研究を深めることができます。また、産学官連携推進室や臨床研究センターといった専門的なサポート体制が整っており、研究に携わる多くの事務職員の方々とチームとなって協力できる環境があります。このような恵まれた環境があるからこそ、有益な研究や質の高い診療が実現できるのだと実感しています。
臨床検査技師を目指す皆さんも、ぜひこの素晴らしい環境の中で、自分の可能性を広げ、チームで協力することの大切さを学びながら大きく成長していってもらえたらと思います。