ご報告の研究成果 小児のC型肝炎が8~12週間の内服薬で完治することを明らかに

小児のC型肝炎が8~12週間の内服薬で完治することを明らかに

久留米大学医学部小児科学講座の水落建輝准教授らの研究グループは、全国多施設での調査により小児のC型肝炎が8~12週間の内服薬投与で完治することを明らかにしました。

本研究成果は、消化器肝臓分野の国際学術誌「Journal of Gastroenterology」に、2023年2月15日(日本時間)にオンライン公開されました。

研究成果のポイント

  • 久留米大学医学部小児科学講座の水落建輝准教授、熊本大学消化器内科の田中靖人教授、近畿大学小児科の田尻仁研究員らを中心とする研究グループは、日本人の12~17歳のC型肝炎患者に内服の抗ウイルス薬であるグレカプレビル・ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠®)を8~12週間投与し、初回治療で96%が完治(ウイルス消失)したことを明らかにしました。
  •  対象の25例中24例(96%)は初回治療で完治(ウイルス消失)し、初回の8週間の治療でウイルス消失しなかった1例も、2回目の治療としてグレカプレビル・ピブレンタスビルを12週間再投与したところ完治(ウイルス消失)したため、最終的に25例中25例の100%が完治(ウイルス消失)しました。
  • 治療後12週時の評価では、血液検査で肝機能の有意な改善を認め、成長(身長や体重の伸び)に悪影響はなく、途中で治療中止となる副作用は認めませんでした。

概要

成人のC型肝炎では、直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals: DAA)の登場により、8~12週間の内服薬で95%以上が完治(ウイルス消失)する時代となっています。日本では小児に保険適用のDAAはありませんでしたが、日本も参加した12~17歳の小児C型肝炎患者を対象とした国際共同試験(DORA-1試験)の結果を踏まえて、2019年にDAAのグレカプレビル・ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠®)が日本でも12歳以上の小児に保険適用となりました。DORA-1試験では、47例中47例の100%が完治(ウイルス消失)しましたが、日本人はそのうち4例と少数であったため、日本人小児に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療の実臨床現場における有効性や安全性は不明な点が多く残されていました1)。

今回の研究では、日本人の12~17歳のC型肝炎患者25例を前方視的に全国多施設で調査し、小児C型肝炎に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療の実臨床現場(Real-World)における有効性と安全性を世界で初めて明らかにしました。対象の25例中24例(96%)は初回の8~12週間(24例が8週で1例のみ12週)の治療で完治(ウイルス消失)し、初回の8週間の治療でウイルス消失しなかった1例も、2回目の治療としてグレカプレビル・ピブレンタスビルを12週間再投与したところ完治(ウイルス消失)したため、最終的に25例中25例の100%が完治(ウイルス消失)しました。治療後12週時の評価では、血液検査で肝機能の有意な改善を認め、成長(身長や体重の伸び)に悪影響はなく、途中で治療中止となる副作用は認めませんでした。

本研究成果は、消化器肝臓分野の国際学術誌「Journal of Gastroenterology」に、2023年2月15日(日本時間)にオンライン公開されました。

本研究の背景

成人のC型肝炎では、DAAの登場により8~12週間の内服薬で95%以上が完治(ウイルス消失)する時代となっています。日本では小児に保険適用のDAAはありませんでしたが、日本も参加した12~17歳の小児C型肝炎患者を対象とした国際共同試験(DORA-1試験)の結果を踏まえて、2019年にDAAのグレカプレビル・ピブレンタスビルが日本でも12歳以上の小児に保険適用となりました。DORA-1試験では、47例中47例の100%が完治(ウイルス消失)しましたが、日本人はそのうち4例と少数であったため、日本人小児に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療の実臨床現場における有効性や安全性は不明な点が多く残されていました1)。

本研究の成果

1) 小児のC型肝炎が8~12週間の抗ウイルス薬(グレカプレビル・ピブレンタスビル)の内服でほぼ完治できることを明らかにした

C型肝炎の完治(ウイルス消失)は、規定の治療期間終了後12週時まで血液検査でC型肝炎ウイルスが同定されないことで判断します。日本人の12~17歳のC型肝炎患者にグレカプレビル・ピブレンタスビルを8~12週間投与し、初回治療で96%が完治(ウイルス消失)したことを明らかにしました(図1)。対象の25例中24例(96%)は初回治療で完治(ウイルス消失)し、初回の8週間の治療でウイルス消失しなかった1例も、2回目の治療としてグレカプレビル・ピブレンタスビルを12週間再投与したところ完治(ウイルス消失)したため、最終的に25例中25例の100%が完治(ウイルス消失)しました。

治療後12週時のウイルス消失率
薬剤耐性異変(RAS)

2)日本人の小児C型肝炎患者でも成人同様に薬剤耐性変異を多く認めたが、グレカプレビル・ピブレンタスビルの有効性は高いことを明らかにした

対象患者25例中23例の薬剤耐性変異(Resistance-Associated Substitution: RAS)を遺伝子解析で調べたところ、複数の遺伝子変異を認めました(表1)が、グレカプレビル・ピブレンタスビルの有効性は前述のように高いことを明らかにしました。

3) 治療後12週時の血液検査で肝機能の有意な改善を認め、成長(身長や体重の伸び)に悪影響はなく、治療中止となる副作用がなかったことを明らかにした

治療前と治療後12週時の血液検査・身長・体重を比較検討しました。肝臓の炎症を示すALTとGGT(γ-GTP)、肝臓の炎症や線維化を示すM2BPGiの3項目全てが、治療後に統計学的有意差(P<0.05)をもって低下していました(表2)。この結果は、治療により肝臓の炎症や線維化が改善したことを示唆しています。以前、小児C型肝炎に対する治療として使用されていたインターフェロンは、成長(身長や体重の伸び)を抑制する報告があったため、今回の研究では治療前後の成長の変化も検討しました。身長や体重の伸び、肥満度(body mass index: BMI)の低下はなく(表3)、治療が小児の成長に悪影響を及ぼさないことを明らかにしました。全例が予定治療期間を完遂でき、途中で治療中止となる副作用は認めませんでした。


治療前後の肝機能検査値
治療前後の身長・体重・BMI(肥満度)

本研究の意義・今後の展開

日本人の12~17歳のC型肝炎患者に対するグレカプレビル・ピブレンタスビル治療は、実臨床現場においても有効性と安全性が高いことを明らかにしました。現在は、3~11歳のC型肝炎患者に対するグレカプレビル・ピブレンタスビルの国際共同試験(DORA-2試験)の結果を踏まえて、2022年に日本でも3~11歳に対しても保険適用となりました2)。現在は、今回の研究と同様の手法で、3~11歳のC型肝炎に対するグレカプレビル・ピブレンタスビルの有効性と安全性の調査研究を開始しております。日本の小児C型肝炎患者では、小児期に肝硬変や肝がんに進展することはないと我々は過去に報告しているため3)、小児期にグレカプレビル・ピブレンタスビルで治療を行い完治(ウイルス消失)できれば、C型肝炎ウイルスが原因の肝硬変や肝がんを、近い将来に撲滅できる可能性があると考えられます

論文情報

【雑誌名】Journal of Gastroenterology

【タイトル】Real-world efficacy and safety of glecaprevir/pibrentasvir in Japanese adolescents with chronic hepatitis C: a prospective multicenter study

【著者名】Tatsuki Mizuochi, Itaru Iwama, Ayano Inui, Yoshinori Ito, Yugo Takaki, Sotaro Mushiake, Daisuke Tokuhara, Takashi Ishige, Koichi Ito, Jun Murakami, Haruka Hishiki, Hitoshi Mikami, Kazuhiko Bessho, Ken Kato, Ryosuke Yasuda, Yushiro Yamashita, Yasuhito Tanaka, and Hitoshi Tajiri.
DOI番号 10.1007/s00535-023-01968-x
掲載日 2023年2月15日(オンライン掲載)

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業(肝炎等克服緊急対策研究事業)で採択されている研究(研究代表者:田尻仁 氏)により得られた成果です。

参考文献
1) Jonas MM, et al. Pharmacokinetics, Safety, and Efficacy of Glecaprevir/Pibrentasvir in Adolescents with Chronic Hepatitis C Virus: Part 1 of the DORA Study. Hepatology. 2020 Feb;71(2):456-462. doi: 10.1002/hep.30840
2) Jonas MM, et al. Pharmacokinetics, Safety, and Efficacy of Glecaprevir/Pibrentasvir in Children With Chronic HCV: Part 2 of the DORA Study. Hepatology. 2021 Jul;74(1):19-27. doi: 10.1002/hep.31841.
3) Mizuochi T, et al. Epidemiologic features of 348 children with hepatitis C virus infection over a 30-year period: a nationwide survey in Japan. J Gastroenterol. 2018 Mar;53(3):419-426. doi: 10.1007/s00535-017-1351-0.

研究・産学官連携研究成果

研究成果:小児のC型肝炎が8~12週間の内服薬で完治することを明らかに